平安貴族はオーガズムの重要性を知っていた?

我が国最古の体系的な医学書として平安時代に宮中医官であった丹波康頼によって編纂されたのが『医心方』です。時代的背景としては清少納言が『枕草子』を著し、紫式部の『源氏物語』が成立したのもこの頃で、陰陽師である安倍晴明が活躍したのもこれと時期が重なります。

この『医心方』巻二八房内篇にはセックスにおける前戯と後戯の必要性について書かれています。

まず「房内」の意味ですが、もともと男女の営みを「房事」といいセックスのおこなわれる部屋は「房内」または「房中」と呼ばれていましたので、「房内」とは今でいう寝室のことです。また、『医心方』卷二八房内篇は性愛の技巧やいろいろな性の悩みへの対処法だけでなく、よい子を生み育てるためのバイプルでもありました。さらには、男女の心の融合の大切さも説いています。

それでは、房内篇の第二一章「求子」を見てみましょう。書き下し文では、「交接シテ洩精ノ時、女ノ快ノ来タルヲ候イ、須ク与二一時二同ジク洩ラスべシ。洩ラセバ必ズ須ク尽クスべシ。」(『医心方巻二八房内篇』筑摩書房)とあります。これを現代語に訳すと、次のようになります。

「セックスのときペニスを膣に挿入して射精しようとする際には、女性がすでにオーガズムに達していることを確認してからにしなさい。そして、ふたりが同時にイクように心がけるべきです。そのあとは、女性への優しいサービスとして愛のスキンシップを忘れないように」

このように、セックスにおける前戯と後戯の重要性が説かれていて、性に対する卓越した深い見識には目を見張る思いがします。今をさかのぼること約千年以上前の平安時代で、しかも男性中心の貴族社会にあって夫婦和合、特に女性に対する配慮の大切さが示されていることは特筆に価するでしょう。

また、古来中国では前戯の重要性について次のように説明しています。

「女性は水で男性は火にたとえられ、男性はすぐにでも自身の火を燃やせるが女性の水が温まるまでには時間がかかる。そのため、男性は燃やす薪を節約しながら徐々に女性の水を温めなければならない。」

これも非常に説得力のある内容です。

最後にもうひとつ。『医心方』の房内篇が『医心方』の代名詞とされ、『医心方』が『医心房』といわれるのも、この巻の第一三章にある「性の秘技三十法」の記述によります。これは後世俗に言われる「性戯四十八手」の体位の原形ともいうべきものです。

セックスにおけるバリエーションでもあるこの四十八通りの性交体位の持つ本来の意味とはすなわち、この体位の変化にともない子宮頸(膣)部の位置が微妙にずれることで女性の性的な興奮がより一段と促進されるということにあるのです。この性感の極みであるオーガズムと妊娠の可能性については拙著『「はりきゅう」治療でしぜんな妊娠あんしん出産』(中央アート出版社)でも論じています。

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