ED鍼治療の実例(三)

<二十六歳・独身男性の場合/自動車メーカー勤務>

身長一八三センチ、体重七八キロと、大変がっしりとした体格のこの患者さんはどことなく知的な雰囲気を感じさせる青年でした。

結婚を前提とした恋人とのセックスが月に二、三回ありましたが、膣にペニスを挿入したあとの”中折れ現象(膣内射精障害)”にとても悩んでいました。その症状はずっと以前からときどきあったようですが、その後は頻繁に起こるようになり、そんな状況が繰り返されるうちに患者さん自身も「近い将来、まったく勃起しなくなるんじゃないか」と真剣に心配するなって、日増しに高まる不安のせいで性欲もだんだんと減少してしまったそうです。

医師の処方によりバアグラを試したところなんとか勃起状態を維持することができ、恋人にも一応は満足してもらえるセックスが可能となったのですが勃起が持続できても射精にまでは至りませんでした。

人は体に関する不安を誰にも相談できない状態が続くと自分自身の中でその不安を大きく膨らませてしまいがちです。どんな男性でも満足のいくセックスができないときにはとことん自分を追い詰めてしまいます。このままでは恋人から愛想を尽かされてしまうのではないかという焦燥感にかられたり、セックスに対して自信喪失となることでEDの症状がより一層悪化するケースも少なくありません。そんな不安な気持ちを解消するために彼は一大決心をして来院したのです。

初診時の国際勃起機能スコア(IIEF5)は13点で、正常値の21点をかなり下回っていることから中程度のEDと診断しました。EDの他にも学生時代にやっていたラグビーの後遺症で首を圧迫するような痛みとしびれがあって、それによる不眠にも悩まされていました。また、仕事上の悩みも増えてますます眠りが浅くなっていく一方でした。

ちなみにEDの患者さんが腰痛をはじめとする関節痛やしびれ、あるいは不眠などの睡眠障害、または頻尿や夜問尿といつた症状も抱えていることはよくあることです。これらの症状が精神面を不安定にさせてしまい、結果的にEDの症状が進行する例もかなりみられます。一見、EDとはまったく関係ないよう症状が実はEDと密接に関係していたりすることもあります。だからこそ初診時のカウンセリングでは、EDの症状だけでなく患者さんの日常を取り巻くさまざまな背景をリサーチする必要があるのです。

この患者さんの場合、はじめの三カ月は全身調整のための鍼治療だけで様子を見ていましたが、鍼治療を始めてからわずか数回の治療で夜はぐっすり眠れるよぅになり、全身の血流がかなり改善されたことを示す兆候が明らかとなりました。慢性的になっていた疲労感も軽くなって、ラグビーの後遗症だから仕方ないとあきらめていた首の痛みもかなりやわらいで楽になったと言います。

鍼による臨床を長年続けてきた私からすれば、わずか数回の治療で効果があらわれることはよくあるケースです。

さらにこの患者さんが感激したのが治療を始めてまもなく”朝立ち”を自覚するようになったことです。そして治療開始後一力月が経った頃には初診時につらかったほとんどの症状が改善され、そのおかげで精神的にもずいぶん落ち着いてきて恋人とのセックスに対する意欲も出てきました。

治療を始めて四カ月目くらいからEDの改善効果をさらに高めるための治療として、鼠径部(足の付け根)と局部(性器の周囲)のツボも追加しておこなうようにしました。これは性器の付近に直接鍼を剌す「局部治療」と呼ばれるもので「ED改善の近道」的な治療であり、「あともう一押し」という段階で実施しています。症状が改善してきているときにおすすめする施術のせいか、ほとんどの患者さんは何の躊躇もなく局部治療を受け入れてくれます。この患者さんの場合も、それまでの鍼治療で多くの効果を実感していたので局部に鍼を刺すことに対する抵抗はなかったようです(現在では初診時より「局部治療」をおこないます)。

この治療の効果によりED回復の兆しが見えてきたある日のこと、私は患者さんにバイアグラを飲んでも構わないから実際に恋人とセックスをしてみてEDがどれだけ回復してきているのか確認することを提案しました。セックスはペニスの平滑筋の伸縮を鍛える一番のリハビリにもなり、EDの改善を促進させるためにも必要です。また、この患者さんの恋人の場合は結婚を前提にお付きあいされている方だけに彼の治療に協力的だったこともラッキーでした。

早速、患者さんにセックスをしていただいたところ、性欲のおもむくままに勃起、揷入、射精がスムーズにできたそうです。このときはバイアグラを飲んでもらってのセツクスでしたが、それまでバイアグラを飲んでセックスをしても射精できなかったことに比べれば格段の回復です。このように、少しずつであっても症状が回復していく状況を患者さん自身に実感してもらうことはとても重要なのです。

その次の治療の際にはバイアグラを服用しないセックスを週に二、三回のベースで試みることをアドバイスしました。もちろん、セックスは相手あってのものなので決して強制ではありません。患者さん自身は「EDを治すための勃起トレーニング」という意識が先立ってしまいがちになります。しかし彼女にしてみればセックスは大切な愛の行為ですから、私に言われたからといって彼女の気持ちを無視してセックスを強要することのないようにくれぐれもお願いしました。

そして、鍼治療と並行して週二、三回のセックスを続けて二週間ほどが過ぎた頃、ついにバィアグラなしのセックスで勃起、挿入、射精まですべてが問題なくできるようになったのです。局部治療の効果でますます性欲が強くなったのはもちろん、勃起していたべニスを膣に挿入しても中折れすることもなくなり性的な悩みは完全に解消しました。

「性器周辺に直接鍼を刺す」と文字にすると、「えっ、そんなところに鍼を刺したら痛いだろう!?」と恐怖心が先立つかもしれません。しかし真剣に病気を治したいときに、治すための最善の方法をすすめられて「怖いからイヤだ」と言う人はまずいないはずです。

EDで悩んだことのない人ならば「EDで死ぬわけじゃないんだから、何もそこまでしなくても・・・」と思われるかもしれませんが、EDのつらさに直面している本人にとっては命を左右する病気ではなくても、それこそ「人生を左右する一大事」です。特に心から愛する女性を悦ばせたいのに逆に彼女を悲しませてしまうというジレンマは男性にとって耐えがたいものでしょう。そんな患者さんのつらさを考えれば考えるほど、どこかの元知事の言葉ではありませんが「どげんかせんといかん!」と、私の中の鍼灸師魂が熱く燃えたぎるというものです。

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